グロピナの聖ピエトロ教区聖堂
アレッツォ県にあるグロピナという小さな村落にある聖ピエトロ教区聖堂を訪れた。古代ローマ人の邸宅があった上に5-6世紀になって小さな教会が建てられた。8世紀にはロンゴバルド族により手が加えられ、更に11世紀に修築された教会である。
教会中に入る。分厚い壁に囲まれた堂内は薄暗いが、内陣に光が当たり神々しい。教会は、細部に至り神のメッセージが隠されている。全てが解明されているわけではないが、玄人気取りで読み解くのも面白い。
採光が取り入れられる窓があるアーチの7は完全を、8は再生を意味するのか。
なんとも素朴で可愛らしい浮き彫りが微笑ましい説教壇。ロンゴバルド時代の作品を再利用している。ロンゴバルド族もキリスト教徒であったのだ。825年と年代が彫られているが、年代付きのロンゴバルド時代の作品はとても珍しいらしい。浮き彫りは、ライオン=マルコ、人=マタイ、鷲=ヨハネで、福音記者たちだ。ライオンはキリストの神性、人はキリストの人性、羽のある鷲はキリストの昇天を表す。でも、一人足らねー。
ちなみにこちの説教壇はフィレンツェのサンミニアート・アル・モンテ教会。技術が進歩しているのが伺えるが、モチーフは同じく、ライオン、人、鷲である。
これがグロピナの説教壇の下部。本当にいい味出してる!ここに、上部の福音記者で足りなかったルカのシンボルである牛がいるよ。万歳している人物たちの上の三角形が連なるところを探してみて。
柱の部分の結ばれている帯は、父と子と、精霊を結ぶ帯(=三位一体)とか、キリストの本質的結合(キリストは神であり人である)も意味するそうだ。
万歳しているのは、ペンテコステ中の12使徒。ペンテコステは精霊が12使徒のもに降りてくるという出来事だけれど、柱が表す三位一体と繋がる。福音記者ルカがこの部分に彫られているのも、ルカだけが三位一体について書き残しているから。と、なんでもなさそうで、実は皆、繋がっている。
植物が絡まっているのは、柏の枝。確かに柏の葉っぱの形が見える。キリスト教で柏の枝は、継続する信仰と徳を表すのだそうだ。
こんなに愛くるしくてふざけた図柄なのに、実にてんこ盛りやね。
身廊と側廊を隔てるアーチの柱頭。それぞれにモチーフが異なる浮き彫りが素晴らしい。獲物を捕らえたちょっと太っちょの鷲。獲物が、ギョッと目を見開いたうさぎではないですか!鷲とうさぎは、肉欲のシンボルであるウサギ=罪人の魂を鷲が地獄に運んでいる、と同時に、キリスト教徒を表すウサギ=善人を鷲が天国へ運んでいる、という風に2重の意味があるらしい。葡萄は聖体拝領というように、全てに何らかの意味があって、昔の信徒ならば読み書きはできずともこれらの彫刻の意味は理解できたらしいっつーから、すっごーい!鷲とウサギのように2重の意味がある場合は、心にやましいことがある人とかネガティブな人はきっと罪人の地獄行きに見えたろうなぁ。
4匹の子豚に乳を与える母豚。素朴だけど、本当にほのぼのするのぅ 母豚は、ローマ神話の豊穣の女神ケレス(ギリシア神話でデメテル)を表すちょっと異教徒テイストの彫刻。しかし、ちゃんとキリスト教の中に当てはめることもできる。母豚が教会、その乳(教え)で育つ子豚=信徒とか。イタリア人って昔からリサイクルが上手だったけど、こういうところもリサイクルするところが面白い。
グロピナ訪問のリクエストを下さったお客様は、金沢百枝先生の『イタリア古寺巡礼』を読まれてこの教会に興味を持たれたのだそう。私も金沢先生、大好き!この本、持ってる ロマネスクの良さを教えて下さった。
ロマネスクの教会はトスカーナにも多く残っているが、見学できる教会、そして柱頭の面白い浮き彫りが今も残っている教会は、それほど多くはない。その中でも、グロピナは見応えのある教会の一つである。
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