西洋菩提樹の香り
初夏になると、西洋菩提樹の花が咲く。わたしは毎年この時を待っている。5月に入ると、菩提樹の下を通るたびに開花まであと少しだと期待しながら、枝を四方に大きく広げた木を見上げる。そこには星屑のように、無数の蕾が散りばめられていた。
そして、今年もようやく咲き始めた。控え目な花ではあるが、それはもう大変によい香りで、静かにあたりへと広がっていく。
須賀敦子さんのエッセイで「ペルージャの街いっぱいに漂っていた菩提樹の香り」という一文があるが、ペルージャをフィレンツェにそのまま入れ替えることができる。
トスカーナの小さな村落に、四辺を菩提樹で囲まれた広場がある。夜になると灯されるオレンジ色の電球に照らされた広場で、ゆっくりとワインを飲んだら楽しいだろうな。菩提樹の香りに包まれた空間はどれほど安らぎを与えてくれることだろう!
久し振りに「若きウェルテルの悩み」と「車輪の下」を再読したが、2冊とも村の広場に植えられた菩提樹の記述があり、そこに故郷や安らぎという意味が読み取れる。シューベルトの冬の旅の中の「菩提樹」も然り。ドイツにとって菩提樹は歴史や文化が結びついた木だということを知った。
そういえば、プルーストの「失われた時を求めて」でマドレーヌを浸したのは菩提樹のお茶だった。欧州の人々にとって菩提樹は、甘い芳香とともに初夏の喜びを運んでくれる木なのかもしれない。
菩提樹はお茶にしても美味しいし、蜂蜜も非常に良い香りで素晴らしい。初夏の欧州で、ぜひ、菩提樹の香りを感じていただたきたい。
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