若手が担うワイナリー2軒

トスカーナにはワイナリーが星の数ほど存在する。
よく知られている銘柄だけでも、モンタルチーノで200軒強、モンテプルチャーノで72軒、ベルナッチャで約50軒、キアンティクラシコに至っては約350軒。トスカーナは面積的にも広いとはいえ、やはりワイン王国だと実感する。
その中でも、最近、大変お気に入りのワイナリーが2軒ある。
ひとつは、モンタルチーノにあるLe Chiuse/レ・キウゼ。
日本でも入手できるし、昨年11月の東京に於けるワイン試飲会にも参加したワイナリーでもあるので、ご存知の方はいらっしゃるであろう。
このワイナリーとは数年前、いわゆるビオを謳っている訪問先を探していたところに出会った。このあたりのワイナリーが基本はどこもビオだとしても、ある程度大きくなると、潅水と同じで(銘柄ワインには潅水はしないが、それ以外のワインには潅水するところもある)、ビオビオ言っても病気で畑が全滅したら元も子もないので、臨機応変な処置を下さねばならぬのが現状だろう。
だから一般的にビオワインなんてものは、正直な話、ただの時代を表す宣伝でしかないと思うところもあるのだが、それでもお客様にビオなんですよ、と言うためには一応ビオ認定でないと困る。そして、小規模でオーナー自身が醸造にたずさわり、ほのぼの感のあるところを探していると、ここのワイナリーに行き着いた。
レ・キウゼは約7ヘクタールの小規模ワイナリー。植栽されている品種はすべてサンジョヴェーゼ・グロッソである。
ロレンツォ
写真は、オーナーの息子さんロレンツォ氏。彼と相棒のミケーレさん二人が、主に葡萄畑と醸造施設を管理している。ロレンツォ氏、27歳(26歳だったかも?)なんですよッ。
彼らは伝統を守りながらも、新しいことにも果敢にチャレンジしている。
たとえば、ロザート(ロゼ)ワインの醸造。ロザートワインはフランス産ではお馴染みであるが、イタリアではそれほど人気がなかったのが、数年前からブームになっている。多くのワイナリーがこぞってロザートを造りだした。私はロザートの味というよりも存在そのものが好きなので大いに結構な話だが、サンジョヴェーゼでロザートをどれほど表現できるのか、興味深いところである。
ロザートワインは2009年2010年と試したようだが、次の新作チャレンジはコチラ。
スプマンテ
サンジョヴェーゼのスプマンテ。
只今、瓶内二次発酵中。この春に販売開始となるそうで、とても楽しみ!1月初旬に訪問したときに、今朝ちょうど様子を見るために1本開けてみたということで、味見させていただいた。
開けてから時間が過ぎたので泡が消えかけてるということだったが、確かにグラス内では泡は消えたけれど、ひとくち口に含むと口内で細かい泡を感じる。上品と言う名がぴったりのスプマンテ・ロザート。春の陽気とともに、淡い薔薇色の泡が届くのが待ち遠しい。
泡物も、やはり流行りのイタリア。もちろん以前から泡物は人気であったけれど、特にプロセッコが売り上げを伸ばしている。「レ・キウゼ」のスプマンテ・ロザートは、今流行のキーワード「ロザート」と「泡」が合体した強力な新商品なのだ。
あら?じゃ、ビオだの、ロゼだの、泡だの、新しいことばかりやってるの?
というと、そうではない。
いつも陽気なロレンツォ氏が至極真面目な顔で言う。「僕達は伝統を守っていかねばならない。それだけの遺産と義務がある」と。
彼がこう言うには理由がある。
「レ・キウゼ」の畑で、昔はブルネッロの生みの親「ビオンディ・サンティ」が「リゼルヴァ」を造っていた。なぜなら、ロレンツォ氏のおばあ様が「ビオンディ・サンティ」の当主フランコ氏の姉妹で、彼らの土地は「ビオンディ・サンティ」から分け与えらたものなのだ。
伝統を守るとは一体?
ロレンツォ氏は続ける。「伝統を守るっていうことは、化学的なものが何もなかった昔からの醸造方法も伝えていくということ。だからこそ、ビオを実践しているんだ」
ワイナリーでは第一次発酵に、酵母を添加しない。そんなところも「昔ながら」の製法のひとつ。
レ・キウゼワイン
ビオを実践し、大樽のみを使用して生産する主なワインは、「ロッソ・ディ・モンタルチーノ」「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ・リゼルヴァ」
(写真左にはトスカーナ・ロッソが。そんな時代もあったのね・・・。そしてその横には、3年程前に、モンタルチーノを通過した自転車競技「ジロ・デ・イタリア」記念ボトル)
試飲室
こんな雰囲気で試飲を・・・。
最初は「ビオンディ・サンティ」が云々という話で、「ふむ、それは面白い」と興味を引いた。
確かに、とてもクリスタルなビオンディ・サンティスタイルで非常に美味しい。
しかし、2006年を飲んで私は唸った。これはもう「ビオンディ・サンティ」の名を借りる必要はないと。
クリスタル性は其の儘でそこに柔らかく伝わる、このレ・キウゼという土地特有のミネラル感が素晴らしい。塩のミネラルとはちょっと違う、鉄分っぽいというのか。これはこの土地が含むPietra Focaiaの影響という。2006年は暑かった年なので、ワインにミネラルがよく反映したそうだ。
(Pietra Focaiaは日本語でなんというのか。辞書には火打石とあるけれど。ようするに鉄分を含んだ鉱物のようである)
ワインの味はまったく個人的なものである。私は最近、ミネラル感のある赤に夢中なので、これは記念日に飲みたいと大いに思えるワインである。
アグリツーリズモ
アグリツーリズモも経営している。トスカーナの田舎家そのもので、味がある。
葡萄畑
窓を開けると、こんな感じで景色が広がっている。冬だったので景色は寂しいけれど、葡萄畑の向こうに広がる丘陵地、ご覧いただけるだろうか。
葡萄畑霧
同じ風景でも霧がでると雰囲気がぐっと渋くなる。こんな日は暖炉の火にあたりながら、ブルネッロワインを飲んだら幸せだろう。うっとり・・・。
そして、もう1軒のお気に入りはヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノを醸造しているワイナリー「モンテメルクーリオ」。
こちらも25歳の若きオーナーの息子マルコ氏が管理する、7ヘクタールの畑のワイナリーだ。
モンテプルチャーノの地区でも「これだ!」と思うワイナリーを発掘したくて、ヴィーノ・ノービレの試飲会の品評を参考に見ていたら、ほかに強力なワイナリーを差し置いて、なぜかしらこの小さいワイナリーが非常な高得点を得ていた。品評をしたのは、私が尊敬するフィレンツェのソムリエ氏。ふむ、一度当たってみようと2年前に訪れたのがきっかけだ。
試飲したワインは、美味しかった。そして、マルコ氏の真摯な情熱に感心した。今は7ヘクタールの畑も、昔は彼の祖父のダーモ氏が3ヘクタールから始めたなど、家族経営という土臭さ満点の、微笑ましいワイナリーであった。
長い時間が経ったが、再び先日訪問する機会に恵まれた。
以前試飲してたときも上品さが際立つ美しいワインであったが、そのときは開栓したてだったので、もうちょっと待てばどうなる?という期待は「訪問時間制限」のため見定めることはなかった。
今回は、ゆっくりと。
モンテメルクーリオ
白ワインから試飲。これは珍しい「トスカーナ色」100%の白。土着品種トレッビアーノとマルヴァジア・ビアンカは普通だが、そこにカナイヨーロ・ビアンコが加わる。なかなかまったりとした、しかしさっぱりさも兼ね備えた中間ワインという感じ。
トスカーナ・ロッソIGTは、これでまだ序の口なの?すでに大いに満足なのですが、というなかなかの優れもの。
そして、ロッソ・ディ・モンテプルチャーノとヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチャーノへ試飲を進める。前回試飲したのは2005年だったと思うが、それ以上に驚く成長を遂げたヴィーノ・ノービレ2007年。エレガントかつミネラル感のあるワインは、私の好みに直球。
通常の試飲はここまでだが、この日は特別、葡萄の樹齢50年の単一畑のヴィーノ・ノービレ「ダーモ」とグラッパをごちそうになった。
「ダーモ」はマルコ氏のダーモおじいさんの時代に植栽した畑。その時に手に入る苗を植えたとのことで、何とバルベラ品種も混ざっている。深みのあるワインで御座いました。
そして、ここは面白いグラッパも造っている。通常とおり蒸留して透明なグラッパが出来上がるのだが、それをヴィンサントの樽にいれて寝かしている。ワインの樽に寝かして、というのは聞くがヴィンサントの樽は初めてである。
グラッパ
だから写真のようにとても蜜色が濃く、ふんわりと干し葡萄の甘みも加わり、まさにグラッパの極上品である。ちなみに、ワイナリーが造るヴィンサントは25年寝かしたものである。魅惑のヴィンサントに違いない。モンテプルチャーノはヴィンサントで有名で特にワイナリー「アヴィニョネージ」が知られるが、その「アヴィニョネージ」にヴィンサントの天然酵母を分けたのが、ダーモおじいさんなんだそうだ。
実はすでに日本と取引が成立しているという。日本の輸入業者さんには本当に感心する。無名でも、小希望でも、「美味しい」となれば輸入する。「レ・キウゼ」と同じく、彼らも昨年11月の東京の試飲会に参加したので、試飲された方もおられよう。
いずれの2軒も、小規模でありながら頂点を目指した、美しい感動を与えてくれるワイナリー。若者が担っているということもあり、ぜひ応援したく思うのである。

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ブルネッロワイナリーツアー

ブルネッロ・ディ・モンタルチーノワイナリー 2軒訪問


ブルネッロ・ディ・モンタルチーノワイナリー ツアー
ツアー料金はお申込み人数で異なります。2名様以外の場合は、ツアーページをご覧いただくか、お問合せください。
別途、昼食代、ワイナリー試飲代が生じます。

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